この本がタイトルに恥じない靴の歴史と日本における靴づくりをまとめた実に
面白い本です。
で。
靴に関する詳しい話は別のblogで紹介するとして。
今回この本をフェニックスブログで紹介するのは第5章 「靴づくり、人づくり」
を知ってもらいたいからです。



1章 日本人と靴
2章 日本人による靴づくり
3章 世界史から見た靴づくりの歴史
4章 稲川 實の人生史
とあります。
ここらの詳しい話は別のblogで紹介しますのでおいといて、、
5章 靴づくり、人づくり
この章を作り手の人が読むとためになります。


章は最初は浅草の学校の紹介、浅草の作り手支援の体制が紹介されています。
そこから独立して工房を構えた人の体験談が載っています。
普通は体験談で成功話が載せられ「ほら!みんなもやってみよう!」的なパターンが
多いのですが、この章の中ではけちょんけちょんに失敗します。えぇ、そりゃもう
見ていて痛々しいほどに。
古着屋で自分で作った靴を履いていると、客からの反応が良かった。
それで、こんな感じの靴を1日何足か作れば、もうかると考えたのである。
しかし、満を持したはずの開業は思わぬ壁にぶつかった。(略)
広島では絶大な知名度のある父の存在もあって注目され、広島の新聞やラジオなどにも出た。
ところが客が来すぎて靴の納期が1年後になってしまった。
「店内の商品が入れ替わらないし、経験したことのない不安なんですよ。
自分の実力が今でいいのだろうかって。130名から140名のお客様を待たせてしまった。(略)」
203頁より引用
機械揃えたり、場所を揃えることはスタートなのだが、お客が来てその後に
どう生きて行くか、という生々しい話が載っています。
この本に載っているこの職人さんはその後修行しなおして再出発します。

この話のつぎには「一人で靴職人思考の『落とし穴』」という話が
展開されます。
この節で話される様々な人の言葉は重く重くのしかかります。
「最近は靴の雑誌や業界誌が、いろいろと靴職人を取り上げるけれど、
それで注文が集まり過ぎたらどーすんのよ。自殺すんじゃないか、と思うね、俺は。
いろいろと事情があるのはわかるけど、あんまり若い子を持ち上げるのは潰すことになると思うよ」
(TVで取り上げられた次の朝、70人のお客が殺到した話をうけて)
「若い子が靴屋をやりたいって言ってきたら、簡単な靴でもいいから、売れる靴を一つ
つくれっていうもの。一つ作れたら、あとは食っていけるよ。市場に伊野波靴屋をやって、
開店までの金を作るのが早道だ。金の作り方はいろいろあって、一番いいのは靴屋で働くことだね。」
208、209頁引用
靴の話ですけど、鞄や小物、さらには革業界全体、もっというなら『昔ながらの職人』と
呼ばれる全ての職人世界に通ずる話のようにも思えます。
この後靴業界の取り組みや靴職人になりたい人は昔どういう流れで職人になっていったか、
機械靴の製造現場の話などが続きます。
靴づくりの文化史、は靴に興味ある人におすすめですが、それ以上に
「作り手として生きていきたい、食べていきたい」という人にも是非読んでもらいたい一冊です。
当社でもこの本の取り扱いを始めました。
(まさかtwitterでつぶやいたら著者から出版社、出版社からうちへと連絡が来るとは、、、
つくづく恐ろしいなぁ、ネットは)
購入時は当店でご購入していただけると当店も出版社も助かります。
(大手ネットサイトはね、、便利だけどね、、、出版社と著者さんは色々きついのよ、、)